書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『原理主義の潮流-ムスリム同胞団』横田貴之(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 著者、横田貴之は、まず「イスラーム原理主義とイスラーム復興」と題したまえがきで、つぎのように述べている。「初めにいっておきたいのは、イスラーム世界において同胞団は決して地味な運動ではなく、今日最大のイスラーム復興運動の…

『抱擁』辻原登(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「ゴシックとさわやか」 こういう作品は近頃あまりない。 とにかく綿密で隙がない。小説ではあるけれど、横から見たりひっくり返したりしながら造形美術のようにして味わってみたくなる。きっちりと準備された設計図があって、作品内に…

『幼児期と歴史―経験の破壊と歴史の起源』ジョルジョ・アガンベン(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「インファンスの二重の意味」 アガンベンの初期の著作であるこの『幼年期と歴史』は、『言葉と死』のような連続したセミナーではなく、論文集という性格をもつものである。ただし本書の「目玉」である「インファンティアと歴史」の文章…

売上ランキング:第六週

長らく更新を怠ってしまいましたが、 今週もこの瞬間がやって参りました! 週間ランキング、最終週の発表です!! ■ワールド文学カップ世界ランキング集計方法 参加している作品の売上冊数を文庫本1冊=1ポイント、単行本1冊=3ポイントとしてそれぞれの所属…

『新世界の悪魔 ― カトリック・ミッションとアンデス先住民宗教』谷口智子(大学教育出版 )

→紀伊國屋書店で購入 「アンデスの神と悪魔」 テーマになっているのは、南米のアンデス地方において、カトリックの宣教師たちにキリスト教に改宗させられた現地の人々の宗教心の複雑なありかたである。大きく二つの部分で構成され、前半は一七世紀の改宗の直…

『共和主義ルネサンス ― 現代西欧思想の変貌』佐伯啓思/松原隆一郎編集(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 「共和主義理論のわかりやすい入門書」 ポコックの力作『マキアベリアン・モーメント』の影響のもとで作られた書物であり、ほとんどすべての論文で、ポコックの恩恵が語られている。ポコックが示した共和主義の系譜をたどり直す論文と、…

『もっと知ろう‼ わたしたちの隣人-ニューカマー外国人と日本社会』加藤剛(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「外国人問題」ということばは、「不法滞在」「不法就労」とか犯罪と結びついて取り沙汰されることがある。しかし、本書を読むと、「外国人問題」ではなく、日本の問題であるとことがよくわかる。 編者、加藤剛は、「はじめに」で、つぎ…

『The Bully, the Bullied, and the Bystander』Barbara Coloroso(Harper Resource )

→紀伊國屋書店で購入 「いじめの問題に真っ正面から取り組んだ本」 8歳の息子を持つ親としては、成績もさることながら、いじめの問題も心配するところだ。 息子は現地校にバス通学をしているが、その帰りのバスで他の学校の生徒のひとりから、「いじめ」と…

『アドルノ-政治的伝記-』ローレンツ・イェーガー(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「逸話が楽しいアドルノ伝」 アドルノの孫弟子にある人のアドルノ伝。「政治的」という形容詞がついているが、それほど政治的なものではなく、むしろ音楽家としてのアドルノの顔が透けてみえるようなエピソードが多くて、おもしろい。 …

『聖なる共同体の人々』坂井信生(九州大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「ウェーバーのテーゼの検証」 この書物は、アメリカ、カナダ、メキシコに移住した再洗礼派の共同体のルポルタージュであり、アーミシュ、ハッタライト、メノー派の共同体の現在の状況が報告されている。映画『刑事ジョン・ブック目撃者…

売上ランキング:第五週

ゴールデンウィークも終わり、皆様いかがお過ごしでしょうか。 5月17日の会期終了もいよいよ迫ってきたワールド文学カップ、 今回とその次の集計で週間ランキングの発表はおしまいです。 ■ワールド文学カップ世界ランキング集計方法 参加している作品の売上…

『蜷川幸雄の劇世界』扇田昭彦(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(51)」 本書は先年刊行された『唐十郎の劇世界』(右文書院、2007年)に続く、演劇評論家扇田昭彦による演劇作家論の第二弾である(続編として『井上ひさしの劇世界』も予定されている)。 本書には著者…

『作家の値段』出久根達郎(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「メディア論的な日本近代文学論。嘘じゃないって。」 本書は、題名で損をしていると思う。福田和也『作家の値打ち』(飛鳥新社)とかけているつもりなのかもしれないが、『作家の値段』という題名で、帯には「『竜馬がゆく』極美50万/…

『夏の流れ―丸山健二初期作品集』丸山健二(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「オブセッション 三島由紀夫との分岐点」 「シェパードの九月」という中篇がある。犬の飼い主としての遍歴を綴ったもので、おそらくは丸山自身をモデルとしているのだろう。飼い主の執着と途方もない勝手に翻弄される犬たちは、次から…

『マックス・ウェ-バ-と妻マリアンネ ― 結婚生活の光と影』クリスタ・クリュ-ガ-(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「サブタイトルで引かないように」 ウェーバーの伝記は、妻のマリアンネのものが圧倒的な詳しさと当事者性から確固とした地位を占めている。しかし妻が書いたものだけに、どうしてもぼかされてしまうところ、描かれないところというもの…

『イスラーム 知の営み』佐藤次高(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、全国的な共同研究「NIHU(人間文化研究機構)プログラム イスラーム地域研究」の成果を、できるだけわかりやすくした「イスラームを知る」シリーズの最初の1冊である。それだけに、イスラームの基本中の基本が要領よくまと…

『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』ネグリ,アントニオ(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 「新しい概念の構築に向けて」 最近多数の著書が邦訳されているネグリであるが、この書物はネグリが珍しく政治哲学のさまざまな概念と思想について、正面から考察したものであり、何度でも読み、考えを練るに値する書物である。これまで…

『真昼なのに昏い部屋』江國香織(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「擬態語のお行儀」 思わず擬態語に目がとまる小説である。冒頭近くにはこんな一節がある。 母親らしい女性の押す乳母車とすれちがい、ジョーンズさんは目を細めました。赤ん坊が好きなわけではなく、赤ん坊がきちんとケアされているの…

Life×ワールド文学カップ

先日もご紹介したTBSラジオ番組、 「文化系トークラジオLife」の番外編にて、 ワールド文学カップを取り上げて頂きました! 閉店後の紀伊國屋書店新宿本店にて収録頂いた音声が、 Lifeのホームページからダウンロード頂けます。 収録当日にお越し頂いたのはL…

売上ランキング:第四週

先日「途中経過」を発表した舌の根も乾かぬままですが、 週間ランキングの発表も忘れてはいけません。 折り返し地点とも言える第四週のランキングです! ■ワールド文学カップ世界ランキング集計方法 参加している作品の売上冊数を文庫本1冊=1ポイント、単行…