書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『フィリピンと対日戦犯裁判 1945-1953年』永井均(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「日本のフィリピン占領(一九四二-四五年)の帰結として、一九三九年の国勢調査人口約一六〇〇万人に対し一一一万人余りという膨大な数のフィリピン人の人命が失われ、家畜と重要産業の精糖工場の各六割が灰燼に帰した。国内全体の損…

『マキァヴェリアン・モーメント―フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統』ポーコック,ジョン・G.A(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「政治思想史の必読書の待望の翻訳」 本書は、政治思想史の分野で長らく注目されてきた書物であるが、大冊なために翻訳がなかなか刊行されていなかった。ぼくもこれまで英語で読んできたが、多くの読者とともに、日本語で読めるようにな…

『四十日と四十夜のメルヘン』青木淳悟(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「記録が記憶となるまで」 青木淳悟は2003年に新潮新人賞を表題作で受賞した現代日本作家である。現代を生きながら同時にその現代を掴むというのはなかなか難しいことだが、小説を同時代的に読むということは、読みながらその時代性を身…

『namesake』 Jhumpa Lahiri(Mariner Books)

→紀伊國屋書店で購入 もう随分長くアメリカに暮らしているが、80年代のある1年間だけ、僕はタカシ・ハタではなくスティーブ・ハタだった。ちょうどアメリカの弁護士事務所のリストを作る仕事をしていて、沢山の弁護士事務所から資料を貰わなければならな…

『吉本隆明自著を語る』(ロッキング・オン)

→紀伊國屋書店で購入 「吉本隆明が分る!」 吉本隆明の『共同幻想論』を高校3年生の授業で扱ったのは、もう20年近い前の事である。もちろん、中々大変だったが、一部の生徒は夢中になって読んでいた。何か自分が今まで出会ったことのない考えと出会うのは魅…

『火宅の人』檀一雄(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「無頼派の人生の旅」 パリは「芸術の都」や「花の都」と呼ばれる。確かにここでは多くの芸術家が誕生し、公園には常に花が咲き乱れている。だが、最後の無頼派と呼ばれた壇一雄にとっても居心地の良い場所であったようだ。アメリカとイ…

ブックレット掲載:第三回

第三回となる今回の掲載では、 前回に続きアジアと中東諸国、 さらに南北アメリカの国々を公開します。 あとはアフリカを残すのみ! ご期待下さい。 ◎PDFを開く◎ 保存してご覧になる方は右クリックの上、 「対象をファイルに保存」をお選び下さい。 ■ピクウ…

引き続き「河出ブックス」をよろしくお願いします!

半年のあいだ、この「書評空間」にお邪魔しておりましたが、今回が最終回です。 河出ブックス、次回の配本は4月初旬、次の3点を予定しています。 014 海野弘『秘密結社の時代――鞍馬天狗で読み解く百年』 幕末から20世紀にかけて多数存在し暗躍した秘密結社の…

『ナショナリズムの政治学』施光恒・黒宮一太編(ナカニシヤ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ナショナリズムとリベラリズムの「規範」の交差」 ナショナリズムとは、捉えどころのない概念であり、論者の立場や専門によって定義はころころと変わる。定義が難しいから、たとえば世論調査によって「実証的」に検証しようと試みるの…

『イザベラ・バード「日本奥地紀行」を歩く』金沢 正脩(JTBパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「130年後のバード『日本奥地紀行』」 イザベラ・バードは一八三一年生まれの富裕なイギリス人女性である。イギリスのレディー・トラベラーの第一人者として知られており、日本には明治一一年にやってきて、日光から新潟、そして北海道…

解説者による戦力分析:未知谷飯島さん

今回の「解説者による戦力分析」では、良質な海外文学を数多く刊行されている出版社、未知谷の編集・発行人である飯島さんにお話をうかがいました。飯島さん、よろしくお願い致します。 ──まず、今回の「ワールド文学カップ」という企画を初めて聞いた時、ど…

『まなざしのレッスン 1 西洋伝統絵画』三浦篤(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「入門書の王道」 文学を専門にしていると、ときに美術の専門家がうらやましく見えることがある。言葉を言葉で語ると、いかがわしい要素が混入しやすい。対象と距離がとれていればいいが、いつの間にか分析対象の言葉に伝染したり似てし…

『演劇のポ・テンシャル(エクス・ポ テン/ゼロ)』(HEADZ)<br>『ニッポンの思想』佐々木敦(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(50)」 これは雑誌なのだろうか、それとも単行本なのか。書店の演劇書コーナーでこの分厚い本を手にした時、わたしは一瞬戸惑いを覚えた。そして一度棚に戻したが、ここで買わなければ一生手に取ることもある…

『バレエ・メカニック』津原泰水(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「日本の正統派幻想耽美小説にしてハードSF小説」 ここ最近、津原泰水の青春ものの文庫化が相次ぎ、つい『ペニス』とか『妖都』のような耽美怪奇を忘れてしまっていた。本当にごめんなさい。『バレエ・メカニック』を読んではっきりと…

『グローバル・ヒストリー入門』水島司(山川出版社)<br>『グローバル・ヒストリーの挑戦』水島司【編】(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 『グローバル・ヒストリー入門』は、「近年さかんに成果が出されているグローバル・ヒストリーについて、ヨーロッパとアジア、環境、移動と交易、地域と世界システムという項目を便宜的に分け、いくつかの研究の紹…

『水の彼方』田原(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「中国新世代の文学」 現代中国が未曾有の経済的発展を遂げていることは、周知の通りである。その発展のなか、文学の領域においても、2000年代以降はこれまでにないタイプの作家が続々と現れてきた。「80後世代」(1980年代生…

『格安エアラインで世界一周』下川裕治(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「LCCの台頭」 本書はいわゆるLCC(ローコストキャリア)を乗り継いで、地球を一周してみるという趣旨の旅行記である。LCCはここ30年ほどのあいだに出てきた、格安を売りにする航空会社の総称で、サービスや人件費を徹底して削…

『旧約聖書の誕生』加藤隆(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「行き届いた旧約入門書」 著者は新約学者だが、この旧約聖書への入門書も懇切丁寧な作りで、聖書への理解を深めるために役立つだろう。旧約聖書の基本的な構成、聖典としての確立の状況、ヤハヴェという神の名の呼び方の由来など、基本…

ブックレット掲載:第二回

ブックレット配信、第二回です。 概要に関しては、 第一回の記載に詳しく書いてあります。 今回の掲載でヨーロッパは終わり、 そこにアジアの国々が続きます。 最終ページのインドはその先頭です。 他のアジア諸国の顔ぶれは次回をご期待下さい。 ◎PDFを開く…

『The Happiness Project』Gretchen Rubin(Harpercollins)

→紀伊國屋書店で購入 「幸せの青い鳥を探す「幸せプロジェクト」」 人間の人生の目的は、その時の状況によりいろいろ変わるだろう。お金を儲ける、家族を持つ、家を建てる、世界をまわる、行きたい学校に行くなどだ。 こう考えると、一生を貫く目的を見つけ…

『世界の果てのビートルズ』ミカエル・ニエミ(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「ターンテーブルで踊るほろ苦い青春」 今大会、スウェーデンから唯一出場しているのがミカエル・ニエミ。そもそも、スウェーデンという名前はよく聞くけれど、実際にはどんな国なのかあまり分からないのではないだろうか。洗練されたデ…

『美女と機械―健康と美の大衆文化史』原克(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「グローバルな身体文化の淵源を描き出す」 以前にも本欄で著者・原克(はら・かつみ)さんの著作を紹介したが、本書に触れてみて著者の作品をすべて読破してみようという気になった。 本書は、19世紀における『サイエンティフィック・ア…

ブックレット掲載:第一回

(ごく一部で)ご要望の多かった、 ブックレットの内容を公表致します。 PDF形式で掲載するので、 4月に新宿まで来られそうもない方や ラインナップが気になって夜も眠れない方は こちらをご覧下さい。 文庫サイズに製本された版は、 紀伊國屋書店新宿本店2…

『精神分析の抵抗―フロイト、ラカン、フーコー』デリダ,ジャック(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「フロイトへの思い」 デリダのフロイトへの思いは強いものがあり、『エクリチュールと差異』に収録されたフロイト論「フロイトとエクリチュールの舞台」以来、長い取り組みがある。この書物に収録された三つの講演の記録は、これまでの…

『パリ 都市統治の近代』喜安朗(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ポリス的なものの近代的概念」 新書洪水のなか昨秋出た一冊だが、地味ながら考えさせられることが多かったので紹介しておきたい。十九世紀前半フランス民衆運動史が専門で、長く日本女子大で教鞭をとった著者は、トクヴィル『フランス…

解説者による戦力分析:新刊JP山田さん

「解説者による戦力分析」の記念すべき第一回は、前回フェア「対決! 共鳴し合う作家たち」の頃からお世話になっている新刊JP編集部の山田さんにお越し頂きました。山田さん、よろしくお願い致します。 ──まず、先日ようやく完成したブックレットをお渡しさ…

『2020年の日本人』松谷明彦(日本経済新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 「猪突猛進の戦争経済体制がやっと終わる。」 人口減少減少時代をどう生きるか。 日本は、世界最高速度で、高齢化が進行しており、なおかつ少子化も進んでいる。この不況で若者の就職内定率は下落しているので、経済的な不安を理由に結…

『Showa Style-再編・建築写真文庫<商業施設>』都築響一編(彰国社)

→紀伊國屋書店で購入 「写真で見るとどんなものでも懐かしい」 夜、ジャズをかけながらこの本を開く。なぜジャズなのか、自分でもよくわからないが、いまかけているのはブッカー・リトルのアルバム。彼の高らかなトランペットと、スコット・ラファエロの腹に…

『「沖縄核密約」を背負って-若泉敬の生涯』後藤乾一(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 2009年12月22日、沖縄核密約文書の原本を故佐藤栄作首相の遺族が保管しているニュースが大きく報じられた。その「密約」の「黒子」を演じたのが、若泉敬(本名「たかし」、外国人には「けい」で知られる)であった。本書は、無告の民や…

『存在と無〈1〉現象学的存在論の試み』サルトル,ジャン=ポール(筑摩書房 )

→紀伊國屋書店で購入 「手軽に文庫で読めるようになったサルトルの主著」 サルトルの大著『存在と無』が文庫化されたのをきっかけとして読み直してみた。小説のように楽しめる本であり、三巻の最後の用語集なども、理解を深めるために役立つ。思えばベルクソ…