書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『ヨーロッパ文明批判序説-植民地・共和国・オリエンタリズム』工藤庸子(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 奥付を見て、初版が出版されて3ヶ月もたたないうちに、3刷になっていることに驚いた。本体価格…

『続・発想法――KJ法の展開と応用』川喜田二郎(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「質的分析とKJ法――データを捨てずに一緒に考える――」 質的調査の授業をしていて常々感じることは、フィールドノーツやトランスクリプト(インタヴューを文字に起こしたもの)といったデータを蓄積する段階までは言うことがたくさんあ…

『香水― ある人殺しの物語―』パトリック・ジュ-スキント[著]池内紀[訳](文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「愛と存在をめぐる贖罪の寓話」 優れた文学作品が映画化されると、多くの場合、失望は免れない。映画『パフューム』はその点、相当の健闘をなした作品である。一部の宣伝では、その猟奇的側面が誇張されすぎた感を拭えないが、映画を観…

『承認の行程』ポール・リクール(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「哲学の舞台裏」 この書物は、承認reconnaissanceという語にこだわりながら、この語とその概念を「哲学素」として構築しようとする試みである。哲学のスタンスとしてまっとうすぎるほどまっとうな試みで参考になるだろう。 ただ読み終…

『表現したい人のためのマンガ入門』しりあがり寿(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「入門しないための入門書」 簡単にやれそうで、意外と難しい。上手い下手が一目瞭然。ちょっとしたワザでそれっぽくなる・・・マンガは「入門」するのにぴったりの条件を備えている。日本では優に百冊を越えるマンガ技法入門の書がこれ…

『大英帝国という経験』井野瀬久美惠(講談社・興亡の世界史16)

→紀伊國屋書店で購入 絵解き歴史学の魅力 英国史家、井野瀬久美惠の語り口がどんどん巧くなっている。最新刊『大英帝国という経験』を見て、そう思った。講談社の人気叢書「興亡の世界史」の一冊ということで、できるだけリーダブルに、まるで良くできた受験…

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル[著]新版・池田香代子/初版・霜山徳爾[訳](みすず書房)

→1977年新版・池田香代子訳を購入 →1947年版・霜山徳爾訳を購入 1956年に初訳が上梓されて以来、世代を越えて読み継がれてきた本である。第二次世界大戦中にナチスドイツの強制収容所に収容されながら、奇跡的な生還を果たした精神科医が書いたものだ。極限…

『マドンナの首飾り-橋本みさお、ALSという生き方』山崎摩耶(中央法規)

→紀伊國屋書店で購入 「マヤヤが書いたみさおの本」 前回の続きで、真っ当なジャーナリストの書いた本を 取り上げようと思ってた矢先、 今朝ダウンロードしたe-mailで、がくっと力が抜けた。 さくら倶楽部より宴の御案内 入梅前夜、皆様にはお変わりありませ…

『テクネシスを具体化する―エクリチュールの彼岸の技術』(未邦訳)マーク・ハンセン<br><font size="2">Mark Hansen, 2000, <I>Embodying Technesis: Technology beyond Writing</I>, The Univesity of Michigan Press</font>

→紀伊國屋書店で購入 ●「技術の哲学」 いかにして技術=テクノロジーを考えていくことができるか? 本書は、この問いの底知れぬ深遠さを教えてくれる。この探求のためにハンセンが対象とするのが、具体的な技術の事例ではなく、20世紀の哲学者たちの技術をめ…

『もうひとつの中世のために--西洋における時間、労働、そして文化』ジャック・ル・ゴフ(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「労働の時間」 本書は中世学の泰斗であるジャック・ル・ゴフの論文集である。といっても五〇〇ページ近い大冊で、次の四部で構成される。第一部「時間と労働」、第二部「労働と価値体系」、第三部「知識人文化と民衆文化」、第四部「歴…

『表象のエチオピア-光の時代に』高知尾 仁(悠書館)

→紀伊國屋書店で購入 高知尾仁の「人類学精神史」 本当に心から良いと思った本をとりあげるのが良心的な書評ということだと、戦略的翻訳家でもあるぼくはひとつのパラドックスに捉えられてしまう。英独仏伊の洋書で自分が良いと思ったものは、しかし全然とい…

『雨、あめ』ピーター・スピアー(評論社)

→紀伊國屋書店で購入 「楽しい季節がやってきた!」 →紀伊國屋書店で購入 いよいよ、うっとおしい季節が来たと思っているのは、こどもゴコロを忘れたつまらない大人なのだ。 日本のいいところは、梅雨というひとつの季節があるところ! 雨の日に徹底的に遊び…

『この社会の歪みについて』野田正彰(ユビキタスタジオ)

→紀伊國屋書店で購入 「ニート、フリーターは気付いている。正社員になれば、待っているのは奴隷労働だ」 この本の帯にはそう書かれている。刺激的な本だが、あまり知られていない本だ。出版社のユビキタスタジオがマイナーだからである。 ユビキタスタジオ…

『記憶する水』新川和江(思潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「根をはる語り」 詩にはいくつかの書き方がある。 日本の現代詩は、しばしば「詩なんか書いてませんよ~」とそっぽを向くようにして書かれてきた。こうなると読者の方も、「付き合いづらいなあ、」などとはじめから思う。付き合う前か…

『旅するニーチェ -- リゾートの哲学』岡村民夫(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「リゾートの旅人」 これはいかにもあって不思議でなかったし、なかったのが不思議なような本だ。ニーチェの著作にはさまざまな滞在地とさまざまな旅が記載されている。ニーチェの思想はヨーロッパのリゾート地を歩くことで「熟れた」の…

『食卓談義のイギリス文学-書物が語る社交の歴史』圓月勝博[編](彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 「卓」越する新歴史学の妙 学問史といってもよいし、知識形成論、知識関係論といってもよいが、才物たちの離合と集散の中から新しい知識が算出される様子を描く本はどれも面白い。田中優子『江戸の想像力』は「連」のそうした出会いの産…

『父フロイトとその時代』マルティン・フロイト(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「フロイトのウィーン」 フロイトには三人の息子と三人の娘がいた。息子たちはマルティン、オリヴァー、エルンストであり、娘たちはマティルデ、ゾフィー、アンナである。息子たちは精神分析からは遠い世界で育ったが、末娘のアンナだけ…

『加藤恕彦留学日記-若きフルーティストのパリ・音楽・恋』加藤恕彦(聖母文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「アルプスに消えた幻のフルーティスト」 人の日記を読むのがおもしろいなどと言ったら趣味を疑われてしまいそうだが、この日記は是非読むことをお勧めしたい。 日記を書いたのは、若き有望なるフルーティスト。生きていたらとっくに還…

『イギリス的風景-教養の旅から感性の旅へ』中島俊郎(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 高校生がピクチャレスクを学ぶ日 旧式な人文科学が気息奄々とする一方、メディア論を核に新しい人文科学が醸成されつつあるのはたしかだし、ぼくなども教育現場にそうした趨勢を反映したカリキュラムを工夫しようと、柄にもなく「教育者…

『女ひとり玉砕の島を行く』笹幸恵(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 本書に登場するのは、普通の日本人である。その普通の日本人が、六十年以上も前に戦争で亡くな…

『ブラッサイ-パリの越境者』今橋映子(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 ブラッサイの名を聞いてだれもが思い浮かべるのは、パリの娼婦館の写真ではないか。 しっかりした腰つきの娼婦たちが、靴だけはいてあとは裸のまま、腰に手を当てて客の男を睥睨している。都会の妖しいイメージにぴったりで、謎と秘密と…

『建築家 五十嵐正』文:植田実、写真:藤塚光政(西田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ありふれたまちの建物を作る楽しみの深さ」 自転車のハンドルを両手でぐいと握りしめた男は、これからどこにでかけようとしているのだろう。蝶ネクタイに眼鏡に革靴。よく焼けた顔でまぶしそうにこちらを見ている。本の最後に付された…

『何も起こりはしなかった』ハロルド・ピンター[著]喜志哲雄[編訳](集英社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「自由民主主義の名の下の人権侵害と言語の危機」 今ほど、わが国の患者の自由が脅かされていることは過去なかった。 しかし、たぶんこのような私たちの危機感も、恒常化すれば議論にすらならなくなるにちがいない。 日本の医療もやがて…

『ブランショ政治論集:1958-1993』モーリス・ブランショ(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「異議申し立ての権利」 これはもちろんブランショの戦前の政治論集ではなく、戦後の政治的な論文を集めた書物である。大きくわけて三つのテーマの文書が集められている。アルジェリア独立戦争をめぐる文章、一九六八年五月「革命」をめ…

『新聞社-破綻したビジネスモデル』河内孝(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 ●毎日新聞はなぜ破綻していないのか? 新聞を定期購読しなくなって、3年ほどたつ。何度か定期購読をしては辞めた経験がある。 大学卒業後に初めて定期購読した新聞は朝日新聞だった。人権とか環境保護とか、不正に怒っているような論調…

『ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記』グレゴリ青山(イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 「古本育ち」 古本情報誌『彷書月刊』(彷徨舎)で大好評だった連載マンガの単行本化。八十年代半ば、著者が学生時代をすごした大阪の古本屋での日々が綴られている。 ヒロイン・グレちゃんは18歳。夜間のデザイン学校で学ぶことになっ…

『暗号事典』吉田一彦、友清理士(研究社[創立100周年記念出版])

→紀伊國屋書店で購入 暗号はミリタリー・マニエリスム 一方に電子メール、電子マネーの飛躍的発達があり、他方に北朝鮮による拉致の問題があって、時代はまさしく「暗号」の時代だ。暗号と聞いて思い浮かべられるほとんどあらゆるテーマを拾いあげる面白い本…