書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-01-01から1年間の記事一覧

『小説の方法 ポストモダン文学講義』真鍋正宏(萌書房)

→紀伊國屋書店で購入 「読んで楽しい文学理論書」 文学の理論書というと、堅くて、難しいことが書いてあって、睡眠導入剤にはうってつけだが(失礼!)一般の読者が読んでも面白くないと思われがちである。高校生に文学を教えている手前、そのような本も結構…

『かんさい絵ことば辞典』ニシワキタダシ/コラム・早川卓馬(ピエ・ブックス)

→紀伊國屋書店で購入 京都から東京へ移ったばかりのころ、街中で耳に入ってくるのが関西弁でないのが、なんとも居心地わるかった。 関東に生まれ育った私は関西弁を話せないが、十何年の関西暮らしで耳は完全に関西仕様になっていたのだ。たまに帰省したとき…

『ミステリーの書き方』日本推理作家協会編著(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 小説家ってどうやって小説を書いているのでしょう。私には未だにわかりません。大学では文芸を専攻し、小説の学校にも通いましたが、そういうところには作家という肩書きの先生方はいても、リアルタイムで作品を書き生き馬の目を抜く出…

『呪いの時代』内田樹(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「『呪いの時代』を乗り越える処方箋」 著者の論述には、意外性や逆転の発想がこれでもかというくらい詰まっていて毎回引き込まれる。「呪いの時代」というタイトルを目にしたとき、評者がイメージしたのは「呪いや占いのようなスピリチ…

『創造する東アジア-文明・文化・ニヒリズム』小倉紀蔵(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 まず主題を見てちょっと気になったが、副題を見てわたしにはわからない本だと思った。つぎに帯の背の「自己の中の他者との邂逅」を見て、別世界の話だと思った。帯の表、裏には、それぞれつぎのように書かれていた。「絶対的な他者など…

『「本屋」は死なない』石橋 毅史(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「書店ファンによる、書店ファンのための、書店員の物語」 先日、印刷関係の人と話をしていて、最近電車の中で週刊誌を読んでいるおじさんをすっかり見なくなった、という話になった。たしかにそうだ。ひと昔まえは、一両に少なくとも4…

『不作法のすすめ』吉行淳之介(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「遊郭と退屈とダンディの奇妙な三角関係」 退屈はたいへん深遠なテーマである。でも、なぜか正面からは語りにくい。その理由は…?などと國分さんのおかげで考えはじめたときに、ちょうど良い本を手に取った。吉行淳之介『不作法のすす…

『Paris to the Moon』Adam Gopnik(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーカー誌に連載されたパリ・ジャーナル」 この本は『ニューヨーカー』誌にエッセイを掲載してきたエッセイスト、アダム・ゴプニックのエッセイ集。ニューヨークに住んでいたゴプニックがパリに移り住んでからの作品が収められ…

『ナショナリズムは悪なのか』萱野稔人(NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 「グローバル化に抗うため、あえてナショナリズムを擁護する」 本書は、哲学者であり津田塾大学准教授の萱野稔人によって書かれた論争的な著作である。 萱野氏には『権力の読み方』(青土社)など本格的な専門書の著作もあるが、いずれ…

『ラーメンと愛国』速水健朗(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 ラーメン屋でラーメンを食べることがない私にとっても、昨今のラーメン屋店主にみられるあの妙な職人気質は、メディアを通して知られるところである。 『ラーメンと愛国』、このタイトルから直ちに頭に浮かんだのは、本書において〝作務…

『東京都北区赤羽』清野とおる(Bbmfマガジン)

→紀伊國屋書店で購入 「最近の若者は海外に興味がなさすぎる!」と、息巻いているコメンテーターをテレビで時々見かけます。中高年の男性が多いですね。「最近の若者は海外旅行しない。留学もしない。車にも乗らない。酒も飲まない。だから日本が駄目になる…

『北沢恒彦とは何者だったか?』編集グループSURE・編

→紀伊國屋書店で購入 「知を求めて生き書いた男の生涯」 ある人物について「何者だったか?」と問いかけるとき、世間にその人のステレオタイプなイメージが流布している場合が多い。たとえば、ヒットラーとは何者だったのか?というように。元があるからそれ…

『ビューティビジネス――「美」のイメージが市場をつくる』ジェフリー・ジョーンズ(中央経済社)

→紀伊國屋書店で購入 「なぜシャンプーは世界中に広まったのか」 本書は、2010年にイギリスで出版されたBeauty Imagined: A History of the Global Industryの日本語版である。そこでメインテーマとされているのは日本語版のタイトルになっている「ビューテ…

『憂国のラスプーチン』原作・佐藤 優、作画・伊藤潤二、脚本・長崎尚志(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「愛国と、個人でいることとは矛盾せず」 本書は、元外交官の佐藤優氏の体験を元に、事実に基づいたフィクションとして描かれたマンガである。東京地検特捜部に逮捕され、拘置所での取り調べ過程とともに、外交官時代のエピソードが時折…

『わが輩は「男の娘」である!』いがらし奈波(実業之日本社)

→紀伊國屋書店で購入 「『ジェンダー・トラブル』よりも刺激的、『妄想少女オタク系』以上にリアル」 「男の娘」とは、「2次元用語であり、女の子のように可愛い女装少年を指す」言葉であり、本書は「無謀にもそんな次元の壁を越えようと日々努力する、二十…

『アラサ―ちゃん』峰なゆか(メディア・ファクトリー)

→紀伊國屋書店で購入 「リア充か否かが問題ではない、関係的自己の生きづらさが問題なのだ」 「リア充」という言葉がある。元々はインターネットから生まれたスラングであり、「リアル(の生活)が充実しているもの」といった意味で、当初は決して肯定的な意…

『モーツァルトの虚実』海老澤 敏(ぺりかん社)

→紀伊國屋書店で購入 日本におけるモーツァルト研究を牽引する音楽学者、海老澤敏による最新の著書である。紐解くと、冒頭には一世を風靡した映画『アマデウス』に関する話題が提供されている。この映画は私も見た。いまだに強烈な印象が残っており、それが…

『老い衰えゆくことの発見』天田城介(角川選書)

→紀伊國屋書店で購入 こんな本、読みたくない! そう思って、書店でタイトルを見て、目をそらしている人もいるのではないだろうか。病人でもないし、障害者でもないが、ほっておけなくなった家族を抱えていたり、自分自身にその徴候が現れて、この先が怖くな…

『The Struggle for Egypt』Steven A.Cook(Oxford Univ Press)

→紀伊國屋書店で購入 「エジプトはどこへ向かおうとしているのか」 今年の2月、エジプトで30年間近く権力を握っていたホスニー・ムバラクが失脚し、エジプトは新たな時代を迎えた。これは、アラブ世界において起こった大規模反政府デモや抗議活動「アラブの…

『プロテスト・ソング・クロニクル――反原発から反差別まで』鈴木孝弥監修(ミュージック・マガジン)

「いま、<闘いの歌>を聴け!」 本書は編集者の高岡洋詞が中心となって企画したもので、35人の執筆者が名を連ねている。7つのカテゴリー(構成は文末に記した)とコラムからなり、言及されている歌は目次に挙げられているものだけで130曲にもなる。年代も、…

『映画の身体論』塚田幸光編(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「身体論が拓く可能性」 本書は全8章からなる。どの章も興味深いが、ここでは、評者が特に惹かれた第2章と第8章に焦点を当ててみたい(各章のタイトルと著者は文末に記した)。 これはまったくの一読者としての感想にすぎないが、身体表…

『子どもを信じること』田中茂樹(大隅書店)

→紀伊國屋書店で購入 生姜がきいた甘酒をいただいた後のような、心と体が温まる本だ。 子どもにはやさしく接する、接していいのだ、厳しく接する必要はないのだと田中さんは言う。 子どもを信じるということは生き物としての力を信じるということだ。 田中さ…

『老い衰えゆくことの発見』天田城介(角川学芸出版)

→紀伊國屋書店で購入 「「どっちつかず」であることの生き難さ」 今回は、当ブログで以前(2010年9月)ご紹介した天田城介さんの最新刊をご紹介します。 この本は、天田さんの著作『の社会学』を、多くの人が読めるように書き直す意図で作られたものです。…

『戦後日本=インドネシア関係史』倉沢愛子(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 本書を読み終えて、「引き続く過去」ということばが浮かんだ。しかし、問題は、2国間関係のいっぽうのインドネシアの人びとがそれを重くとらえているのにたいして、もういっぽうの日本の人びとの多くがすでにまったく意識していないか、…

『ジブリの哲学—変わるものと変わらないもの』鈴木敏夫(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「マイケル・ジャクソンが趣味だ」という知人がいます。「帰宅してビールを飲みながらマイケルの記事をチェックする。バード・ウォッチングならぬマイケル・ウォッチングをするのが好き」なのだそうです。なるほどなあと思いました。誰…

『切除されて』キャディ(ヴィレッジブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「目を背けてはいけない事実」 読もうと思って買ってきても、何となく手を付けられないで机の隅でほこりをかぶっている本が、誰にでも一冊や二冊はあるだろう。私にとって、キャディの『切除されて』はそんな一冊だった。忘れていたわけ…

『Unwritten Laws』Hugh Rawson(Castle )

→紀伊國屋書店で購入 「人生を乗り切る法則の数々」 「ボールを投げなければ、打たれない」。 これはニューヨーク・ヤンキースのピッチャーだった、バーノン・(レフティ)・ゴメスの法則だ。一九三七年の試合で強打者ジミー・フォックスをバッターボックス…

『洋画家たちの東京』近藤祐(彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 「彼等は食う為でなく、実に飢える為、渇するために画布に向う様なものである。」 帯にあるのは、漱石が朝日新聞に発表した文展評「文展と芸術」からの一文である。青木繁、村山槐多、中村彝、関根正二、長谷川利行……漱石のいうように、…

『暇と退屈の倫理学』國分功一郎(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「退屈について教えてあげよう」 「退屈」はきわめて深遠なテーマである。パスカル、ニーチェ、ショーペンハウエル、キルケゴール、ハイデガー……近代ヨーロッパのおなじみの思想家たちはいずれも「退屈」に深い関心をよせ、あれこれと考…

『文化・メディアが生み出す排除と解放』荻野昌弘編(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「文化・メディアの両義性をかすりとる」 文化やメディアの排除性を否定的にとらえた書物は数多くある。しかし、読者は本書が一方的にメディアの差別性や差別用語を批判しようとするものではないことにすぐに気がつくだろう。その特徴は…