書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

早瀬晋三

『はじめて学ぶ日本外交史』酒井一臣(昭和堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書を読むキーワードは、「文明国標準」と「社会外交史」である。著者、酒井一臣は、「序 外交史をまなぶ【「今」を理解するために】」で、それぞれの見出しの下に、つぎのように説明している。 「文明国標準」:「19世紀には…

『海のイギリス史-闘争と共生の世界史』金澤周作編(昭和堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ずいぶん挑戦的で、挑発的な本である。このような本が編集できるようになったのも、日本の西洋史研究がヨーロッパから学ぶ段階から脱し、独自の西洋史観をもって歴史学を語ることができるようになったからだろう。それは、歴史…

『一つの太陽-オールウエイズ』桜井由躬雄(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「大緊張をもって読ませていただきました。最も強く感じた事は、結局、貴君だけが、まともに地域学をやったのだ、ということです」。本書は、タイ国日本人会の会報紙『クルンテープ』2010年11月号~2012年11月号に連載された「…

『パプア-森と海と人びと』村井吉敬(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今年、白木蓮が散りはじめた3月23日、家族らが見守るなか、著者の村井吉敬は息を引き取った。69歳。その1ヶ月前の2月22日に、著者はカトリックの洗礼を受け、洗礼名フランシスコ・ザビエルを選んだ。4月8日、葬儀ミサ・お別れ会…

『新・ローマ帝国衰亡史』南川高志(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「これはすごい!」、まずそう思った。本書のタイトルの「新」の後に「・(ナカグロ)」がある。その意味を問い、理解することが本書の価値を知ることになるとも思った。 表紙裏開きに、つぎのような要約がある。「地中海の帝国…

『捕虜が働くとき-第一次世界大戦・総力戦の狭間で』大津留厚(人文書院)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「第一次世界大戦を通じて捕虜の数は九〇〇万人ほどと考えられている」。そして、帯には、「敵国のために働くとは?」とある。これまで考えが及ばなかった領域に足を踏み入れる予感があった。 「おわりに」で、本書の意義につい…

『日中対立-習近平の中国をよむ』天児慧(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「中国とどうつき合うか?」 著者、天児慧は、2010年9月の「中国漁船衝突事件」以来、「大学の仕事以外に、日中問題を考え、書き、喋ることが筆者の日常で最も大きな比重を占める仕事となった」。それまでの数年間、「日中関係…

『国際海洋法』島田征夫・林司宣編(有信堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「歴史的には、海洋法は、近代主権国家成立のはるか以前における、海を媒介した海運・商事関係に関する慣習法からの影響を強く受けている」。「条約の締約国と非締約国との間では慣習法が適用される。ただし、国際社会全般に広…

『戦う女、戦えない女-第一次世界大戦期機のジェンダーとセクシュアリティ』林田敏子(人文書院)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書は、「大戦の勃発を機に顕在化したイギリスにおけるジェンダー問題を、プロパガンダ、制服、モラル・コントロールをキーワードに読み解いていく」。 大戦という非常事態は、女性にとってプラスにはたらいたのか、マイナスに…

『南極条約体制と国際法-領土、資源、環境をめぐる利害の調整』池島大策(慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 南極条約は、1959年に作成され、61年に発効した。その後、人の住まない宇宙や深海底などにかんする条約(67年宇宙条約、82年国連海洋法条約など)に影響を与えたという点で、ひじょうに重要な意味をもつだけでなく、平和という…

『多民族国家シンガポールの政治と言語-「消滅」した南洋大学の25年』田村慶子(明石書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 シンガポールのことを、「明るい北朝鮮」と言った人がいる。本書を読めば、その意味がわかる。1965年の独立以来、リー・クアンユーの指導の下、人民行動党が一党独裁を続け、その独裁を批判すれば、国内治安維持法で無期限に収…

『「八月の砲声」を聞いた日本人-第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」』奈良岡聰智(千倉書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「本書で取り扱うテーマは一見マイナーかもしれない」。しかし、マイナーだからこそ、重要な意味をもってくることがある。とくに本書で扱う第一次世界大戦は、「総力戦」として知られる。研究のほうも、マイナーなテーマを含め…

『黄禍論と日本人-欧米は何を嘲笑し、恐れたのか』飯倉章(中公新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「さて、お楽しみいただけたでしょうか。「面白くなければ歴史ではない」などというつもりはもちろんないのだが、諷刺画を扱っているからには、読者の皆さんにはその皮肉や諧謔を味わってもらいながら、当時の歴史を実感してい…

『フィリピンBC級戦犯裁判』永井均(講談社選書メチエ)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本と日本が植民地にしたり占領したりした国や地域との歴史認識問題は、なぜいつまでもつづくのだろうか。その理由の一端が、本書からわかる。それは、日本とそれらの国・地域の責任の考え方が違うからである。日本人は戦争に…

『反市民の政治学-フィリピンの民主主義と道徳』日下渉(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 リピーターが多く、やみつきになる国や地域、社会がある。そんな国のひとつがフィリピンで、著者もその虜になった。「あとがき」で著者は、その理由をつぎのように述べている。「私は、フィリピンをこよなく愛している。いつも…

『グローバル社会を歩く-かかわりの人間文化学』赤嶺淳編(新泉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 フィールドワーカーの本音が聞こえてくる。それは、編者の赤嶺淳が執筆者に、「「わたし」という一人称を主語に文章を綴ってほしい」とお願いしたためである。かつてのお行儀のいい研究成果報告ではなく、現地の人びとと苦労や…

『草の根グローバリゼーション-世界遺産棚田村の文化実践と生活戦略』清水展(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、著者、清水展(ひろむ)が1997年から2009年までの12年間に毎年必ず1度は調査村である北部ルソン山地のイフガオ州ハパオ村に出かけ、集中的な調査をおこなった成果である。本書の論述と考察の中心は、ふたりの男の活動と語りである…

『ホロコースト後のユダヤ人-約束の土地は何処か』野村真理(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「ホロコーストの嵐が吹き荒れるなか、ユダヤ人に逃走する理由がありすぎるほどあったとすれば、戦後、彼らはなぜ、もとの居住地に帰還して生活を再建せず、ヨーロッパを去ったのか。彼らは、どこに行きたかったのか」と、著者野村真理…

『村を癒す人達-1960年代フィリピン農村再建運動に学ぶ』フアン・M・フラビエ著、玉置泰明訳(一灯舎)

→紀伊國屋書店で購入 訳者の玉置泰明は、「今ごろなぜ一九六〇年代のフィリピンの農村開発の記録を取り上げる価値があるのか」、気にしている。しかし、副題にある通り、「学ぶ」ことがあり、それを他人にも説明できて「学ぶ」ことを共有できるなら、古い新…

『共在の論理と倫理-家族・民・まなざしの人類学』風間計博・中野麻衣子・山口裕子・吉田匡興共編著(はる書房)

→紀伊國屋書店で購入 「本書は、清水昭俊先生から教えを受けた学生有志によって編まれた文化人類学の論文集である」。本書を読み終えて、個人的にはまったく存じあげない清水昭俊先生が、いかに優れた研究者であり、教育者であったかがわかった。さまざまな…

『ナチ・イデオロギーの系譜-ヒトラー東方帝国の起原』谷喬夫(新評論)

→紀伊國屋書店で購入 ヒトラーといえばユダヤ人虐殺というイメージがある。しかし、著者、谷喬夫は「あとがき」で、つぎのように述べている。「もし<ホロコースト>だけを単独で考察してしまうと、ヒトラーの蛮行は政治思想の対象というより、結局かれの人…

『記念碑に刻まれたドイツ-戦争・革命・統一』松本彰(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 東西ドイツの統一から丁度1年後の1991年10月3日に、ブランデンブルク門を見に行った著者松本彰は、「統一後にドイツ人の歴史意識がどのように変化していくか確かめたいと思い」、「記念碑のハンドブック」「記念碑の通史」を手に入れ、…

『東アジア海域に漕ぎだす1 海から見た歴史』羽田正編・小島毅監修(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 『海域から見た歴史-インド洋と地中海を結ぶ交流史』(名古屋大学出版会、2006年)の著者、家島彦一は、つぎのように明確に自らの立場を述べている。「海(海域)の歴史を見る見方には、陸(陸域)から海を見る、陸と海との相互の関係…

『フィクション論への誘い-文学・歴史・遊び・人間』大浦康介編(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、京都大学人文科学研究所の共同研究「虚構と擬制-総合的フィクション研究の試み」の成果をもとにした論文集である。本書の狙いは、「なによりまず読者にフィクション論の諸相にふれてもらい、「フィクション論的思考」とでもい…

『サストロダルソノ家の人々-ジャワ人家族三代の物語』ウマル・カヤム著、後藤乾一/姫本由美子/工藤尚子訳(段々社)

→紀伊國屋書店で購入 著者、ウマル・カヤムの執筆の大きな動機のひとつは、「欧米諸国のインドネシア研究者によって語り継がれてきた「プリヤイ」解釈への失望感」であった。解説者、倉沢愛子は「プリヤイを一言で表現する的確な日本語はない」とし、つぎの…

『日本統治時代台湾の経済と社会』松田吉郎編著(晃洋書房)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、兵庫教育大学東洋史研究会を前身とする史訪会の会員13名からなる論文集で、「新たな研究成果を盛り込んで体系的に日本統治時代台湾の社会経済史を述べる必要がある」との考えから企画されたものである。 その13の論文(章)は、…

『ベルリンの壁-ドイツ分断の歴史』エトガー・ヴォルフルム著、飯田收治・木村明夫・村上亮訳(洛北出版)

→紀伊國屋書店で購入 「壁が倒れたとき あなたは何歳でした? なぜ人びとは壁に慣れてしまったのか? その壁がどうして、1989年に倒れたのか? 建設から倒壊までの、冷戦期の壁の歴史を、壁のことをよく知らない若い人にむけて、簡潔かつ明瞭に解き明かす。…

『東大講義 東南アジア近現代史』加納啓良(めこん)

→紀伊國屋書店で購入 「あとがき」で、著者加納啓良は「国や地域ごとに民族や言語が大きく異なる東南アジア全体の歴史を1人で描くという冒険をしている」と述べている。長年、東京大学で「東南アジア近現代史」や「東南アジア経済史」の講義を担当してきた著…

『ミャンマーの国と民-日緬比較村落社会論の試み』髙橋昭雄(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ミャンマー(ビルマ・緬甸(めんでん))研究を始めて三〇年、訪問したミャンマー国内の農村は優に二〇〇を超える。私は一介のミャンマー研究者として、と同時に、日本の農村で生まれ育った、専業農家の長男として、いわば二つの顔を持…

『二〇世紀の戦争-その歴史的位相』メトロポリタン史学会編(有志舎)

→紀伊國屋書店で購入 「二〇世紀は、義和団の乱とボーア戦争[に]よって幕を開け、第一次および第二次世界大戦という二度にわたる未曾有の大戦争を人類は経験した。一九一四年以降、二〇年代の一時期を除いて地球上に戦争がなかった年はないと言われ、戦争…