大竹昭子
→紀伊國屋書店で購入 「生のメカニズムを観察する眼」 片山廣子と聞いても知らない人がほとんどではないかと思う。私も本書の元になった『燈火節』が出る数年前までそのひとりだった。そのとき、大部な本をひもとき、こんな作家がいたのかと驚かされた。 今…
→紀伊國屋書店で購入 「死刑を語るさまざまな声の記述」 これまで死刑についてまともに考えたことはなかった。本書を読み終えたいまはちがう。さまざまな想念が頭を過る。「死刑をめぐる三年間のロードムービー」と帯にある。死刑という言葉の重さと、ロード…
→紀伊國屋書店で購入 「先見に満ちた旅の記録」 これまで『路上』の名で出ていたジャック・ケルアックの代表作が、原題のまま『オン・ザ・ロード』として新訳で出版された。「オン・ザ・ロード」という言葉には単に道路の上にいるというだけではなく、「旅行…
→紀伊國屋書店で購入 「人の不安の根源に迫る」 正月にイアン・マキューアンの新作を読んで、早くも今年のベストが決まってしまった。いや、二十一世紀の名著に入る傑作かもしれない。 『土曜日』は文字どおり、ある土曜日の出来事を描いた小説だ。未明から…
→紀伊國屋書店で購入 氷点下の世界、人と自然の接するところ 写真を写真展で見るのと、写真集で見るのとは別の体験である。これは絵画展と画集のちがいとは異なる。ホンモノと複製品という線引きが出来る絵画とちがって、写真の場合はどちらも複製品である。…
→紀伊國屋書店で購入 「異文化に踏み込んだ音楽家」 コリン・マクフィーという音楽家がいる。1900年にカナダに生まれ、アメリカで音楽教育を受け、パリに留学し、ニューヨークで本格的な活動を開始、とここまではありふれているが、バリ島のガムラン音楽のレ…
→紀伊國屋書店で購入 「思考の散歩道」 「これは自問自答の本です」と最初にある。「私にとって書くことは考えつづけることだ」とも記されている。なるほど、結論と見えたものは、すぐに新しい問いに転じてつぎの章にバトンタッチされる。山頂を目指すのでは…
→紀伊國屋書店で購入 「デジタルな状況を生き抜く覚悟」 最初のページにあるのは、廃品を寄せ集めてブルーシートで覆った、雑草だらけの河原にある小屋。ページを繰ると、今度はアップで撮った廃物が目に飛び込んでくる。プラスチックのオイルタンク、ロープ…
→紀伊國屋書店で購入 「複製技術を介した音楽体験を考察する」 私は本書にインタビューが載っているミュージシャンをひとりも知らず、しかもテクノやアブストラクト・ヒップポップやミュジーク・コンクレートなるジャンルにもうとい。 書評するのははなはだ…
→紀伊國屋書店で購入 「平面と直線の世界以前の記憶」 北海道のプゴッペ洞窟にはじまり、南米のパタゴニアに終る旅の記録写真である。 旅の目的は壁画と洞窟を訪ねることだが、目的地だけでなく、 そこに行着くまでの過程も一緒に撮られていて、 気がつくと…
→紀伊國屋書店で購入 「越境という生き方」 パリに住む作家と東京にいる作家が往復書簡を交わすというのは、 取り立てて珍しいことではないかもしれないが、 在パリの作家が中国人女性で、在東京のほうがフランス人男性となると、 にわかに謎めいてくる。 パ…
→紀伊國屋書店で購入 「ボサノヴァの創始者と、彼の母国の魅力を伝える」 ふとした出来心で買って開かないまま、古本屋行きになる本があるが、この本は幸いそういう運命を免れ、いつか読むだろうと、そのいつかがいつになるかわからないまま、手元に置かれて…
→紀伊國屋書店で購入 「ことばの「引っ越し」と潔い孤独」 イーユン・リーというはじめて名前を聞く作家の短編集を手にとる。 中国系の女性作家であることが、カバーの著者紹介からわかる。1972年に北京で生まれ、96年に渡米し、 現在はカリフォルニアのオー…
→紀伊國屋書店で購入 「ハワイの彼方にある孤独」 世界の観光地で、ハワイほど陳腐なイメージを担っているところはないだろう。どちらにご旅行へ? と聞かれても、ハワイだとは言いたくない、そんな感じがある。あらゆるものが旅行者のためにお膳立てされ、…
→紀伊國屋書店で購入 描かれるフリーターたちのその後 黒一色に銀文字のタイトルだけ、というロックっぽい扉を開くと、 7篇のタイトルが並んでいる。 そのうち、「ロック母」は昨年、川端康成文学賞を受賞したときに文芸誌で読んでおり、タイトルを見てその…
→紀伊國屋書店で購入 活字の生まれ育った場所 読めない文字に囲まれたり、思いどおりに字が書けなかったりしたとき、 文字が生き物じみて感じられることがある。 意味がはがれて形として文字が迫ってくる、 スリリングな瞬間だ。 本書は文字がいまある姿をと…
→紀伊國屋書店で購入 生命の本質を分子レベルで問う 生き物のことを考えるようになったのは、スナネズミを飼うようになってからだ。 一匹、一匹の差が際立っていて、ひとつとしておなじものはいない。 犬猫ならそれも当然と受け流せるが、 こんなに小さな生…
→『Memoires 1983』 →『Aus den Fugen 脱臼した時間』 自死した妻のメモワール 金属のように光る馬の皮膚、ピンと背筋を伸ばしてまたがる女性、 彼女の張り出した額、凝視する鋭い視線。 ただならぬ予兆に充ちた表紙写真だ。 背後が闇で、この場所についてな…
→紀伊國屋書店で購入 ブラッサイの名を聞いてだれもが思い浮かべるのは、パリの娼婦館の写真ではないか。 しっかりした腰つきの娼婦たちが、靴だけはいてあとは裸のまま、腰に手を当てて客の男を睥睨している。都会の妖しいイメージにぴったりで、謎と秘密と…
→紀伊國屋書店で購入 ●日本の現代小説はポップカルチャーだ! 最近、小説を読まなくなったとつぶやく友人がいる。 ノンフィクションのほうがいい、いや、日記や書簡のほうがもっといい、とも言う。 歳を重ねるほど、その傾向が強くなるようだ。 若い小説家が…
→紀伊國屋書店で購入 ●城をめぐる戦後日本の連想ゲーム 『わたしの城下町』とくれば自動的に、 ♪格子戸をくぐり抜け……という歌詞が浮かんでくるが、 本書は昭和歌謡を扱ったのでもなければ、わが城下町讃歌でもなく、 「天守閣からみえる戦後の日本」を考察…