書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

四釜裕子

『ちょっと昔の道具から見なおす住まい方』山口昌伴(王国社)

→紀伊國屋書店で購入 「消えたのに忘れることができない道具を巡って」 明治生まれのおじいちゃんの遺品を整理していた友人が言った。「おじいちゃんと一緒に暮らしていたころは食卓に家族それぞれの箸箱を置いていた。大切にしていたんだけれど、いつのまに…

『新国誠一works 1952‐1977 』編集:国立国際美術館(思潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「新国誠一は〈伝説の〉詩人である」 生前ただ1冊の詩集を残した新国誠一(1925-1977)は、漢字を組み合わせたり分解して1篇の作品とした「象形詩/視る詩」と、仮名と数字を用いてさながら楽譜の役割を担わせたかのような紙片とその朗読…

『ある日の村野藤吾 建築家の日記と知人への手紙』村野敦子:編(六耀社)

→紀伊國屋書店で購入 「手入れ人の記録」 2008年8月2日〜10月26日に東京・汐留の松下電工汐留ミュージアムで開かれた「村野藤吾——建築とインテリア」展は、「SECTION3 建築家の内的世界」に愛読書や日記、手帳も展示されていて印象的だった。ぼろぼろになっ…

『もうひとつの国へ』森山大道(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 シケた日にはこんなふうに日記を書けるようになりたい 「もうひとつの国へ」なんて、きざなタイトルで反吐が出る。帯にはもうひとつのきざ。 「火曜日、記すべきことなし、存在した。」というのは、ジャン・ポール・サルトル「嘔吐」の…

『磯崎新の「都庁」 戦後日本最大のコンペ』平松剛(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 磯崎新の「大風呂敷」を包む平松剛の「大風呂敷」 本扉に描かれた○と×と△と□と|と。左手人差し指を掲げてウインクしたロボットの顔のようなこの図柄はなんだ? ページをめくってなかほど第8章「遡行」の小見出しに「○×△□ どうして? プ…

『東京下町 風が見える街』長尾宏(東京堂出版)

→紀伊國屋書店で購入 路地爺、長尾宏の微笑み 東京の下町の風景、124枚——土手にのぼって土筆を摘む青い軍手のおじさんと車椅子にすわって待つおばさん/日向ぼっこする赤ちゃんの笑顔に思わず手を合わせて微笑む通りすがりのおじいちゃん/ランドセルをあけ…

『東京サイハテ観光』中野純:文 中里和人:写真 (交通新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 土地の命の力に押されて最果てに行ってしまった気持ちになる観光 どんな場所でも、そしてどこでもきっと同じ長さの、その土地自体の命がある。それに比べて私たち人ひとりぶんの一生はあまりに短く、しかも同じ場所にそう長くは居ないか…

『セルフビルド-自分で家を建てるということ』石山修武=文、中里和人=写真( 交通新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 家が似合う人たち 大人になったら誰もが家を作るのだと思っていた。一軒家が並ぶ田舎だったし、左官業をやっていた祖父のところにお弟子さんや職人さんが多数出入りしていたことも影響していただろう。色とりどりの壁土やタイルや道具に…

『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』岡田芳郎 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「忘れ去ったのではない。忘れたふりをせざるを得なかったのだ。」 小学生のころだったと思う。山形県酒田市の中心街が燃え広がる様子を伝えた夜のニュースは、今でもよく憶えている。強い西風にあおられて、一晩で新井田川までの22.5ヘ…

『詩集「三人」』金子光晴、森三千代、森乾(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 名もなき家族が残したもの 2007年、東京の古書店で金子光晴の未発表の詩集が見つかった。 光晴と、妻である作家・森三千代(愛称・チャコ)、そして息子、森乾(けん。愛称・ボコ。のちに仏文学者)の三人の詩が、B6判200ページ余(厚…

『ノアーレ 野荒れ』野坂昭如/言葉 荒木経惟/写真 黒田征太郎/画(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 未来や過去や現在のすべての14歳に贈りたい 庭に出した椅子に下駄履きで腰掛け、口を真一文字にしてサングラスの奥からこちらをキィと見つめる男。足もとには、蚊取り線香。左手に杖をつき、立ちあがる。足もとにはやはり、蚊取り線香。…

『絵はがきのなかの彦根』細馬宏通 (サンライズ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「大人」による「風景探偵調書」 すでに絵はがきについての著書『絵はがきの時代』(2006青土社)があり、明治時代の塔の研究をまとめた『浅草十二階』(2001青土社)の資料として集めたのが絵はがき収集の始まりという著者の細馬宏通さ…

『小さな建築』富田玲子(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 建物はひとの気配をまとう 『小さな建築』というタイトルに、ル・コルビュジエが両親のために建てた「小さな家」や、立原道造が「窓がひとつ欲しい」と書いて構想していたヒアシンスハウス、増沢洵設計の最小限住居、それを現代に活かし…

『お江戸超低山さんぽ』中村みつを(書肆侃侃房)

→紀伊國屋書店で購入 都心で山登りなんてまさかと思う。 著者の中村みつをさんは子供のころから野山に遊び、中学で東京・奥多摩の川苔山、高校で谷川岳、そしてヒマラヤ、アルプス、パタゴニアにも脚を伸ばすホンモノの登山家だ。なのに都心で「山」と付く地…

『世界の地図を旅しよう』今尾恵介(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 地図は地形のフロッタージュなのだから 地図ネタのトリビア本、そんなつもりで読みはじめてもいいだろう。地図研究家・今尾恵介さんの新刊だ。面白くないわけがなく、驚かないわけがない。どのページを開いてもきっと明日誰かに自慢した…

『続・建築家が建てた幸福な家』 松井晴子 写真・村角創一 (エクスナレッジ)

→紀伊國屋書店で購入 幸せな「家」たちにこの本を贈ろう 年月を経た住宅地を何の目的もなく歩くのが、私は好きだ。 パラパラとページをめくり目に飛び込んできた一文で、この本を開く準備は瞬時に整った。年月を経た住宅地を何の目的もなく歩くのがなぜ好き…

『遊歩のグラフィスム』平出隆(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 グラフィックな快感に御褒美のあめ玉を 整理整頓ができない理由を、自身の「極端な秩序志向、まっすぐな整調的思考」にあると思い至ったところから、この遊歩ははじまる。散らかった机を今片づけてもまたすぐに散らかるのだからそこに時…

『宝物』平田俊子(書肆山田)

→紀伊國屋書店で購入 水、水を! 言葉の粒で目詰まりした詩人の身体 平田さんの詩をはじめて知ったのは『(お)もろい夫婦』で、六本木の青山ブックセンター、向かって右、階段の横にあった詩の棚だったと思う。可笑しいのに嫌みがなくてスタイリッシュ、そ…

『昭和30年代スケッチブック-失われた風景を求めて』文:奥成 達 絵:ながた はるみ (いそっぷ社)

→紀伊國屋書店で購入 なつかしく、なりたい 詩人でエッセイストの奥成達と、イラストレーターのながたはるみによるなつかし図鑑シリーズの、7冊目である。これまでの6冊、『昭和こども食べもの図鑑—卓袱台を囲んで食べた家族の味、その思い出の味覚たち』 …

『ピーターラビット全おはなし集 愛蔵版 改訂版』 著:ビアトリクス・ポター, 翻訳:石井桃子・間崎ルリ子・中川李枝子 (福音館書店)

→紀伊國屋書店で購入 ビアトリクスが用意したもう一つの「場所」 子どものころから今にいたるまで、ピーターラビットにそれほどなじみはない。赤いにんじんみたいなものをおいしそうに食べていたピーターとか、カエルの絵は好きだったけれど「○○どん」と呼ぶ…

『日本ロボット戦争記 1939~1945 』井上晴樹 (NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ロボット」に希望をつないだのは子ども ロボット体験の最初の記憶は、古田足日と堀内誠一版の絵本『ロボット・カミイ』だった。空き箱を集めては、作った作った、わたしのカミイ。かまぼこ型の目をしたかぶりもの系で、動力はもちろん…

『HENRY DARGER’S ROOM 851 WEBSTER』 小出由紀子/都築響一(編) (インペリアルプレス)

→紀伊國屋書店で購入 「日常」と「非日常」をつなぐ砂時計の首をみる愉しみ 花柄の、やや厚みのある紙でくるまれた表紙に、金色の手書き文字で描かれたタイトル。本文はごくシンプルにタイピングされている。なんども開閉されたのだろう、角という角はみな丸…

『図説 着物柄にみる戦争』乾淑子(インパクト出版会)

→紀伊國屋書店で購入 戦争柄の着物をつくり、着物柄に戦争をみる 骨董市に出かけて手ぶらで帰ってはつまらないから、収穫のないときには山積みされた葉書や端布まで戻っていって、ひっくり返してながめてみる。「赤い鳥」から飛び出たような男の子がまるまる…

『冷たいおいしさの誕生 日本冷蔵庫100年』村瀬敬子(論創社)

→紀伊國屋書店で購入 新鮮でないものをわざわざ食べたくないもんねーという感覚を喪失した100年 数年前の暑い夏、冷蔵庫が壊れた。それまで代々友人からの譲り受けをつないで使っていたので、新品を買うのは初めてのこと。ごく普通のものは思ったより値段は…

『本へ!』羽原肅郎(朗文堂)

→紀伊國屋書店で購入 「愛、愛、愛の本!」 活版印刷機「Adana-21J」の販売とその使い方や楽しみを伝えるアダナ・プレス倶楽部を今年新たに立ち上げた朗文堂から、「造形者と朗文堂がタイポグラフィに真摯に取り組み、相互協力による」“Robundo Integrate Bo…

『まいにち植物』藤田雅矢(WAVE出版)

→紀伊國屋書店で購入 「いのちをつなぐ当番日記」 タネからまいたアサガオが、枯れてしまった。双葉が元気に開いたあとに生長が止まって、蔓を伸ばすことなく。いよいよだめだとあきらめた朝はつらかったが、久しぶりに鉢を選んで買うのも楽しかった。タネか…

『東京夢譚』鬼海弘雄(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 「なつかしさという紐のこぶ」 曇りの日も、晴れの日も。こんな日は、いい写真が撮れるかもしれない。写真家は、「○○に行ってみるか」と家を出る。すれ違う人や犬や建物を観察しながら、頭の中は時と場所を超えてゆく。「Web草思」に連…

『建築家 五十嵐正』文:植田実、写真:藤塚光政(西田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ありふれたまちの建物を作る楽しみの深さ」 自転車のハンドルを両手でぐいと握りしめた男は、これからどこにでかけようとしているのだろう。蝶ネクタイに眼鏡に革靴。よく焼けた顔でまぶしそうにこちらを見ている。本の最後に付された…

『アルバムの家』女性建築技術者の会(三省堂)

→紀伊國屋書店で購入 「もやもやの家に目盛りを打つ『間取り図』物語」 中学1年生を末っ子に4人の子どもと暮らす夫婦が、マンションのリフォームにあたってワンルームを希望した。周囲は、本当に子どもたちはそれでいいのかしらと心配するも、当人たちはいた…