書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

高山宏

『後ろから読むエドガー・アラン・ポー-反動とカラクリの文学』野口啓子(彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 宇宙が巨大なマガザンであるかもしれない夢 アメリカ文学をその狭い守備範囲でやり続けている人たちにとっては大きな衝撃であったかと思われる鷲津浩子氏の『時の娘たち』は、女史自身言うように「『ユリイカ』を西洋知識史の流れのなか…

『時の娘たち』鷲津浩子(南雲堂)

→紀伊國屋書店で購入 ひと皮むけたら凄いことになるはずの蓄積 いろいろなところで書いた通り、ぼくの出発点はメルヴィルの『白鯨』(1851)で、その書かれた時代をF.O.マシーセンが「アメリカン・ルネサンス」と呼んだことで田舎者だったアメリカ人たちが…

『知の版図-知識の枠組みと英米文学』鷲津浩子、宮本陽一郎[編] (悠書館)

→紀伊國屋書店で購入 ルース・ベネディクトの『菊と刀』に心底恐怖した なにしろ凄いタイトル。魅惑そのもののタイトルの一冊。荒木正純氏経由、同じく悠書館ということで続けて読んでみた。編者の一人、鷲津浩子氏は、アメリカ文学をやる人たちに一番欠けて…

『芥川龍之介と腸詰め(ソーセージ)-「鼻」をめぐる明治・大正期のモノと性の文化誌』荒木正純(悠書館)

→紀伊國屋書店で購入 鼻で笑えない新歴史学の芥川論 副題を見ると「鼻」白むしかない(何をしようとしているか即わかってしまうからだ)が、メインタイトルを近刊案内で見た時には、あの怪物的大著『ホモ・テキステュアリス』の荒木氏がついに本気で「日本回…

『ウーマンウォッチング』 デズモンド・モリス[著] 常盤新平[訳] (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「文明の衝突」の真の戦場が少女たちの体であること ただ楽しく読んでいれば良いというのなら、こんなに楽しい本はない。その昔、デズモンド・モリスに「人間の知性に対する侮蔑」と叱られたフィジオノミー(観相学)と18世紀後半という…

『綺想の表象学-エンブレムへの招待』伊藤博明(ありな書房)

→紀伊國屋書店で購入 視覚メディア論、どうして最後はいつもイエズス会? 一時、エルメスのエンブレムなどといって、随分フツーに「エンブレム」という言葉が使われた。実は16、17世紀ヨーロッパ文化が一挙に視覚文化の色合いを強めていった時の尖兵となった…

『クロモフォビア-色彩をめぐる思索と冒険』 デイヴィッド・バチェラー[著] 田中裕介[訳] (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 ロラン・バルトもバフチンもいろいろ そうだなあ、詩人の平出隆さんとか写真家でキュレーターの港千尋さんあたり、色について書くとこうなるかな、というエッセー。お二人は偶然多摩美の同僚ということだが、「感性」ばかりか相当な「知…

『南総里見八犬伝 名場面集』湯浅佳子(三弥井古典文庫)

→紀伊國屋書店で購入 シンプル・イズ・ベストを「発犬」させる一冊 ただ目に付いた本をてんでんばらばらに取り上げるのなら何もぼくがやることもない当書評空間なので、マニエリスムや、かつて「専門」ということになっていた英文学畑、技術史、文化史と何冊…

『江戸の大普請-徳川都市計画の詩学』タイモン・スクリーチ[著] 森下正昭[訳] (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 タイモン・スクリーチにこんな芸があったのか 「その筋」のお偉方に「青い目の人間に江戸の何がわかる」などと言われながら、『江戸の身体(からだ)を開く』で新美術史学の新しい「黄金時代オランダ絵画」観とのアナロジーによる江戸「…

『江戸絵画入門-驚くべき奇才たちの時代』~「別冊太陽」日本のこころ150号特別記念号 河野元昭[監修] (平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 夢の美術館から戻ってきた感じ その世界のバイブルとなった『奇想の系譜 又兵衛‐国芳』の著者辻惟雄氏を中心とした日本美術史研究の新風・新人脈で、江戸260年の長大な展望を試みた。『奇想の系譜』は1970年刊(初出)。当時、マニエリ…

『広重と浮世絵風景画』大久保純一(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 そっくりピクチャレスクと呼べば良い 今年2007年夏、芸大美術館で広重の《名所江戸百景》展を見た。しばらく洋ものアートの展覧会ばかりだったのでえらく新鮮に感じたが、同時に久方ぶりに、18世紀末から19世紀劈頭にかけて洋の東西がTh…

『時代の目撃者-資料としての視覚イメージを利用した歴史研究』 ピーター・バーク[著] 諸川春樹[訳] (中央公論美術出版)

→紀伊國屋書店で購入 「視覚イメージの歴史人類学」にようやっと糸口 なにかと話題多い映画監督のピーター・グリーナウェイだが、その最新作『レンブラントの夜警』でもって2008年、「文化史」をめぐる動きは賑々しく始まることだろう。名画『夜警』に加えら…

『都市の詩学-場所の記憶と徴候』田中純(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 エイデティック(直観像素質者)のみに書ける本 人文科学はもはや過去のものという貧血病の負け歌、恨み節は何も今に始まったものではないが、大体済度しがたい語学オンチや無教養人とぼくが見ている連中に限ってそういうことを言ってい…

『秘密の動物誌』 ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミゲーラ[著] 荒俣宏[監修] 管啓次郎[訳] (ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ホモ・フォトグラフィクムが一番性悪だった いわゆる奇書である。二人のスペイン人写真家が1980年、取材で赴いたスコットランドの小さな村でペーター・アーマイゼンハウフェンという動物学者が遺した古い木製の棚を発見する。「剥製標本…

『潜在的イメージ-モダン・アートの曖昧性と不確定性』 ダリオ・ガンボーニ[著] 藤原貞朗[訳] (三元社)

→紀伊國屋書店で購入 曖々然、昧々然たる(ポスト)モダニズムの大パノラマ 曖昧さ、曖昧性を指すアンビギュイティ(ambiguity)という言葉は、心理学で愛と憎のふたつがひとつ心の中に併存することを指す語、アンビヴァレンス(ambivalence)と一緒に流行っ…

『わたくし率 イン 歯ー、または世界』川上未映子(講談社)/『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』川上未映子(ヒヨコ舎)

→『わたくし率 イン 歯ー、または世界』を購入 →『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を購入 関西弁のマニエリスムかて、や、めっさ、ええやん ぱらっとめくったページにいきなり、 それまでの季節を洗濯機に入れたのは二十歳のこと。それをきし…

『ファンタジア』 ブルーノ・ムナーリ[著] 萱野有美[訳] (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 人は70才でこんなやわらかいファンタジアを持てるものなのか デザインに革命をもたらすイタリア人デザイナーには、流石レオナルド・ダ・ヴィンチを輩出したお国柄だけのことはあり、何でも知って何でもやってみようという多面万能、西周…

『アンリ・ミショー ひとのかたち』東京国立近代美術館[編著](平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「汚点(しみ) 心を迷わせるための」 今年2007年もいろいろな展覧会が見られた。東京はその気になれば世界一、さまざまなアートを一遍に楽しめる稀有な場とつくづく思う(料理にも言えるだろう)。模倣と具象に即(つ)いて市民社会に…

『綺想迷画大全』中野美代子(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 ディテールの神に嘉されて永久に年とる暇などない めちゃめちゃ知識を強いるポストモダン批評満載の建築学の本が続いて流石に頭が痛い、少し楽しいビジュアル本で目を楽しませようというか、同じ痛いのでも目に痛いタイプの本を新刊で何…

『歪んだ建築空間-現代文化と不安の表象』 アンソニー・ヴィドラー[著] 中村敏男[訳] (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 空間はどきどきしている/風船だ、と歌う大理論書だ 先回紹介の『建築の書物 都市の書物』に取り上げられた、現代文化における建築および建築学の位置を知る上で必須の100冊の中で、とりわけ読者に直接手にとってみたいと思わせたに違い…

10+1 series 『Readings:1 建築の書物 都市の書物』 五十嵐太郎[編] (INAX出版)

→紀伊國屋書店で購入 あの『GS』テイストは今吹かれると一段と気持ちいい 当連載においてここ数回、一昔前に出た素晴らしい本が今年2007年に次々と復刊、重版され再び活字として読めるようになって、という紹介をしてきた。ぼくの趣味も当然あるが、シヴェル…

『パラドックスの詩人 ジョン・ダン』岡村眞紀子(英宝社)

→紀伊國屋書店で購入 あまりにもみごとに閉じた<開け>の本 ロザリー・L・コリーといえば、ルネサンス後半(今日流にいうマニエリスム)におけるパラドックスの各局面での大流行を、ことに英国について論じた決定的な仕事であまりにも有名な研究者である。…

『イギリス風景式庭園の美学-「開かれた庭」のパラドックス』 安西信一 (東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 そうか、パラドックスを考えるのに庭以上のものはないわけだ 文化史家としてのぼくは、自分では娯しみのために何かの論を始めたつもりが、少し時間が経ってみると意外に大きな問題の糸口だったのかと知れてくる、といった位置づけにある…

『空間の文化史』(時間と空間の文化:1880-1918年/下巻) スティーヴン・カーン[著] 浅野敏夫、久郷丈夫[訳] (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 第一次大戦は「キュビズムの戦場」だった ヴォルフガング・シヴェルブシュに次いで、今一番あざやかに文化史の現場を伝えてくれる相手としてスティーヴン・カーンの名をあげたい。随分前に文化放送開発センタ-という聞き慣れない版元か…

『鉄道旅行の歴史-19世紀における空間と時間の工業化』 ヴォルフガング・シヴェルブシュ[著] 加藤二郎[訳] (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 マルクスもフロイトもみんなみんなレールウェイ 文化史を名のる本の例に漏れず注が充実して面白いので、そちらを読むうちに、シャルル・ボードレールを「チャールズ・ボードレール」とした表記に繰り返し出合うので、その程度の訳なんだ…

マリオ・プラーツ編 『文学、歴史、芸術の饗宴』 全10巻 (うち第1回配本・全5巻) 監修・解説:中島俊郎/発行:Eureka Press

A Symposium of Literature, History and Arts. Edited by Mario Praz [English Miscellany所収論文集] 詳細はこちら--> ■第1回配本 (1950年-1967年) 全5巻 税込価格¥102,900 (本体¥98,000) 在庫あり 書誌確認・購入は--> ■第2回配本 (1968年-1982年) …

『名編集者エッツェルと巨匠たち-フランス文学秘史』私市保彦(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 編集とは発明、と言うのはなにも松岡正剛さんだけではなかった フランス19世紀文化史には「発明」という観点からみて実に面白い画期的な着想がいくつもあって、ロビダの『20世紀』などいってみればその滑稽な集大成、かつそもそも「発明…

『20世紀』 アルベ-ル・ロビダ[著] 朝比奈弘治[訳] (朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 発明とモードに狂うのは内がうつろなればこその たとえば知る人ぞ知る愉しい図版集、デ・フリエスの“Victorian Inventions”(邦訳『ヴィクトリアン インベンション』)をのぞくと、19世紀末人士が発明狂の新時代をどんな具合に夢みてい…

『ホフマンと乱歩 人形と光学器械のエロス』平野嘉彦(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 本当はフロイトその人が一番あぶないのかも マラルメの「純文学」的難解詩にアキバ系人造美女の構造を見た立仙順朗氏のエッセーに感動させられた『人造美女は可能か?』を読んだ後、今年の新刊なら平野嘉彦『ホフマンと乱歩 人形と光学…

『人造美女は可能か?』巽孝之、荻野アンナ[編](慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 オタク死んでも、やっぱマラルメは残るぞかし いってみれば機械マニエリスムが16世紀に始まったことを教えてくれる最近刊に次々と啓発された後、その20世紀末~21世紀初頭における再発を一挙総覧できるのも、有難いし、面白い。それが慶…