書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

大竹昭子

『SWISS』長島有里枝(赤々舎)

→紀伊國屋書店で購入 「異国にいる「孤独」が浮かびあがらせたもの」 彼女のこれまでの仕事を知っている人は、この写真集を開いてホントに長島有里枝?と首を傾げるかもしれない。1993年、大学生のときに「アーバナート」展でパルコ賞を受賞しデビュー、受賞…

『一〇〇年前の女の子』船曳由美(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「少女の目で描いた一〇〇年前の村落共同体の暮らし」 この本のことはある編集者の方から贈っていただいて知った。著者・船曳由美さんは自分の先輩格に当たる方でその仕事ぶりを常日ごろ尊敬している、その彼女がこのたびこのような本を…

『エレーヌ・ベールの日記』エレーヌ・ベール著 飛幡祐規訳(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「60余年を経て発表されたユダヤ系フランス人女性の日記」 前回取りあげたジェラルディン・ブルックスの『古書の来歴』は、ユダヤ教徒が過越しの祭りのときに読むハガダーという書物の物語だった。本来は挿画を入れてはいけないはずなの…

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス(ランダムハウス講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「1冊のヘブライ語の古書、その物質的な豊かさ」 ジェラルディン・ブルックスの作品で最初に読んだのは『マーチ家の父』だった。これは『若草物語』に着想を得て、四人姉妹の父アーチが家庭を離れているあいだに戦地でどんな体験をした…

『話す写真』畠山直哉(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「文化度ゼロ」の地点にむかわせる写真の力 日本の写真家が、国外でも積極的に活動するようになったのは、90年代半ばくらいからだろうか。それ以前にも展示の機会はあったが、写真家自らが意識してそれをおこなうようになったのはそのこ…

『編集者 国木田独歩の時代』黒岩比佐子(角川選書)<br>『古書の森 逍遙』黒岩比佐子(工作舎)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「国木田独歩はビジュアル好きのすぐれた編集者だった」 古書ファンには女性が少ない。古書フェアなどでうつむき加減に、しかし内心は人にとられてなるものかと闘争心を燃やしつつ手を動かしているのは決まって男性…

『山田脩二 日本旅 1961ー2010』山田脩二(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「時代を超越して写しだされたもの」 『日本村 1969ー79』という写真集を見たのは、1979年の出版時よりずっとあとのことだが、日本中をこんなにエネルギッシュに撮りまくっていた写真家がいたのかとびっくりした。しかも作者の山田脩二…

『名残りの東京』片岡義男(東京キララ社)

→紀伊國屋書店で購入 「写真機がもたらす孤独、それが物語る「東京」」 街を歩くのが何よりも好きな私は、天気のよい夕方など、いまこのときに輝いている何かがどこかで待っているような気がしてそわそわする。風景は光や湿度や風の具合によって佇まいを変え…

『現代写真論』シャーロット・コットン(晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 「あたかも世界を編集しているような「現代写真」のありよう」 写真ほど誕生以来、激しく変し多様化を遂げてきたメディアはないだろう。撮り方のスタイルや様式だけでなく、それがもつ社会的な意味が大きく変化してきた。写真はカメラで…

『極東ホテル』鷲尾和彦(赤々舎)

→紀伊國屋書店で購入 「現代社会の肖像か? それとも人間の普遍的肖像なのか?」 「極東ホテル」という名前のホテルが実在するわけではない。だが、どこかにありそうな気持ちにさせるところが、この写真集のタイトルのうまさだ。時代のズレを感じさせる懐か…

『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「伝説の書店、そのユートピア思想と混乱ぶり」 本書のタイトルを見て、イギリスではなくパリの街を思い浮かべた人は、シェイクピア&カンパニー書店の元祖についてご存知だろう。戦前のパリにその名を馳せた伝説的な書店で、ガートルド…

『シンプルな情熱』アニー・エルノー(ハヤカワepi文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「自己の被写体化、パッションの外在化」 出たときに読んでとても刺激を受けたが、なにに惹かれたのかうまくことばにできずに無念な思いがした本である。編集者や作家が集まっている場でこの作品の「特別さ」を主張したときも、だれも賛…

『ケンブリッジ・サーカス』柴田元幸(スイッチ・パブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「亡霊」にガイドされる記憶の旅 フリーで仕事をしているなら曜日など関係ないようだが、ウィークデーは世間とつながっている感じがし、それがオフになる週末はやはりほっとする。週末は時間の流れ方が変る。現実とのリンクが薄らぎ、そ…

『フランク・ロイド・ライトの呪術空間』草森紳一(フィルムアート社)

→紀伊國屋書店で購入 ライトの「限界」と「凄み」を伝える異色の書 フランク・ロイド・ライトの建てた旧帝国ホテルを知っている人は異口同音に、あのホテルは暗かったと言う。わたしのおぼろげな記憶でもそうで、華やかさにはほど遠く、ちょっと恐い感じさえ…

『Showa Style-再編・建築写真文庫<商業施設>』都築響一編(彰国社)

→紀伊國屋書店で購入 「写真で見るとどんなものでも懐かしい」 夜、ジャズをかけながらこの本を開く。なぜジャズなのか、自分でもよくわからないが、いまかけているのはブッカー・リトルのアルバム。彼の高らかなトランペットと、スコット・ラファエロの腹に…

『崩壊』オラシオ・カステジャーノス・モヤ(現代企画室)

→紀伊國屋書店で購入 「距離をもって描かれる映像的効果」 書店に行って買う予定だったものとちがう本を買ってきてしまう。そんなことがたまにある。予定している本のことはもう頭に入っているからあせって買わなくてもいい。ところがいま目前で電波を送って…

『光と重力』今井智己(リトルモア)

→紀伊國屋書店で購入 「奇妙なほどモノが克明にみえる瞬間」写真集にはおもしろいと感じて、そのおもしろさがすっと言葉になるときと、時間のかかるときとがある。今井智己のこの写真集がそうだった。感じとっているものはたくさんあるはずなのに、そうでな…

『 斜線の旅』管啓次郎(インスクリプト)

→紀伊國屋書店で購入 「生命運動そのもののような旅のあり方」 この本を読んでいるあいだずっとふんわりした至福に包まれていた。日常を変えてしまうような急上昇の興奮ではない。時間の色が変わり、ルーティーンワークすらが楽しくなるような変化である。生…

『通訳ダニエル・シュタイン』リュドミラ・ウリツカヤ(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「瞠目させられる構成力、驚愕の書」 2009年に読んだ本でもっとも驚いた本といえば、この『通訳ダニエル・シュタイン』である。さまざまなことに驚愕したが、まずは作品の形式だ。 最初の章はエヴァ・マヌキャンと…

『グローバリズム出づる処の殺人者たち』アラヴィンド・アディガ(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「ITビジネスで急躍進するインドの光と影」 信頼できる友人の勧めで手にとり、感動して読み終える本がときたまあるが、その一冊だった。自分から読むことはぜったいになかったと断言できる。まずタイトルがいただけない。 実際、友人も…

『にっぽん劇場』『何かへの旅』森山大道(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「森山大道はこうして出来上がった」 いま書店の写真コーナーには森山大道のたくさんの写真集が売られている。大判のものからペーパーバックまで、サイズも厚みも装丁もさまざまな写真集がところ狭しと置かれており…

『東京Y字路』横尾忠則(国書刊行会)

→紀伊國屋書店で購入 「Y字路は妄想の入口である」 近くの駅に行くのに、普通の道を行くのと、Y字路を通っていくのと、ふたつの行き方があるが、行きにはふつうの道を通り、帰りにはY字路を通ることが多い。どうしてなのか考えたことがなかったが、いまわ…

『通話』ロベルト・ボラーニョ(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 失うもののない人生の「落後者」が放つ聖性 ロベルト・ボラーニョという作家を、この本ではじめて知った。本邦初訳だし、知らない作家はこの世にたくさんいるものだが、彼の場合は「こういう作家がいるとは知らなかった」と言ってみたい…

『沖縄01外人住宅』岡本尚文(ライフ・ゴーズ・オンinc.)

→紀伊國屋書店で購入 沖縄に花開いたコンクリート文化 はじめて沖縄に行ったときに驚いたのは、目にする住宅のひどく武骨なことだった。コンクリートの塊と呼びたくなるような、飾り気のない四角い建物が多かった。 壁が湿気で黒ずんでいたり、どぎつい色の…

『ブラジル紀行』板垣真理子(ブルース・インターアクションズ)

→紀伊國屋書店で購入 「ブラジルのアフリカン・カルチャーの源を探る」 しょっちゅう旅をしていると思われているらしく、行ってない国はありますか、などと訊かれることがある。とんでもない。地球上のほんのわずかな場所しか知らない。インド、アフリカ、中…

『精霊たちの家』イザベル・アジェンデ (河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「『運命』を口にできる体験の重み」 夏は私にとってそのためにとっておいた本を読む季節だ。中身のしっかり詰まった厚めの本をゆっくりとめくる。物語の舞台がどこか遠い国ならばなお理想的。夏休みの思い出と旅の記憶がよみがえり、東…

『斬進快楽写真家』金村修(同友館)

→紀伊國屋書店で購入 「欧米とは180度ちがう写真家のテーゼ」 最初に金村修の写真に注目したのはヨーロッパで、東京綜合写真専門学校在学中の1992年にオランダのロッテルダムのフォト・ビエンナーレに選出、96年にはニューヨーク近代美術館の「New Photograp…

『エレファントム』ライアル・ワトソン(木楽舎)

→紀伊國屋書店で購入 「科学と非科学のはざまを駆け抜ける」 ライアル・ワトソンと聞くと、遠い昔のように感じるのは、80年代に一世を風靡した後、パタリと名前を聞かなくなったからだろうか。一種の流行現象のような印象があったので、この本を目にしたとき…

『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「定年なしの表現者の人生」 カズオ・イシグロというと長編作家という印象が強い。最初に邦訳された『日の名残り』から、2006年の『わたしを離さないで』まで、これまで翻訳出版された作品はどれも長編だった。だからこの本の広告を見た…

『たのしい写真』ホンマタカシ(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「ホンマタカシの新たなる意思表明」 1990年代後半にホンマタカシが登場したとき、写真界に新しい動きが出てきたのを感じた。それまでのカラー写真では、露出を半目盛り絞ってアンダー気味に撮るのが流行っていたが(代表的な例は藤原新…