書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

石井政之

『排除と差別の社会学』好井裕明・編集(有斐閣)

→紀伊國屋書店で購入 「私たちは差別の当事者だが、善意の第三者の演技をしているだけだ。」 障害学の研究会を、私が生活している浜松(静岡県)で立ち上げようと思っている。 障害をめぐる現実や言説を、社会学の視点で読み解き、差別や排除をなくすための…

『書いて稼ぐ技術』永江朗(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「出版不況のなかで読むライター指南本の読後感はほろ苦いに決まっているだろう!」 出版物の生産地としての東京はいま揺れている。twitterだ、ブログだ、キンドルだ、iPadだあー、出版構造の大転換がきているぞー。だけどどーしよーもね…

『ぼくが葬儀屋さんになった理由』冨安徳久(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「暴走族だった青年を店長にする葬儀屋さんの心意気」 東京よりも地方が面白い。しかし活字になる書籍の多くは、本社が東京のものが多い。本が好きな人から見れば、地方には面白い会社が少ない、となりかねないのではないか。そんなこと…

『ツイッターノミクス』タラ・ハント著 村井章子訳(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「鼻くその噂、タイムライン、モントリオール」 昨年からのツイッターブーム。多くのツイッター関連書籍が出版されていく。日本の出版界の宿痾である、柳の下にドジョウが100匹いる、という読者不在のマーケティングのもとに、内容が…

『俺たち訴えられました!』烏賀陽弘道、西岡研介(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「名誉毀損で勝ち抜いたジャーナリストの警鐘」 名誉訴訟で訴えられた二人のジャーナリストが、それそれの訴訟体験を赤裸々に語る対談本である。正確にいえば「対談」ではない。片方のジャーナリストが、もう一方にインタビューをすると…

『2020年の日本人』松谷明彦(日本経済新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 「猪突猛進の戦争経済体制がやっと終わる。」 人口減少減少時代をどう生きるか。 日本は、世界最高速度で、高齢化が進行しており、なおかつ少子化も進んでいる。この不況で若者の就職内定率は下落しているので、経済的な不安を理由に結…

『ご遺体専門美容室』中村典子(Wish Publishing)

→紀伊國屋書店で購入 「愛知県の「おくりびと」が手で触ってきた死」 ご遺体をきれいにして、服を着せ、棺桶に納める仕事があります。湯灌師。納棺師ともいわれます。 2009年にアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」(監督・滝田洋二郎/主演・…

『ソクラテスのカフェ』マルク・ソーテ(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「哲学カフェ事始め」 静岡県浜松市という中規模都市で、明日「哲学カフェ」を始めます。 浜松初ということもあり、インターネット新聞「浜松経済新聞」でも取り上げられました。 昨年秋に、哲学カフェをはじめると思い立ち、すぐに「哲…

『フリー 無料からお金を生み出す新戦略』クリス・アンダーソン (著), 小林弘人 (監修), 高橋則明 (翻訳) (日本放送出版協会)

→紀伊國屋書店で購入 「万物がフリーになるわけではない。希少性という商機はいつも目前にある。」 インターネットによって、さまざまなサービス、商品の価格がフリー(無料)になっていく。その破壊的な力によって、既存のビジネスモデルが崩壊したり、変革…

『逝かない身体』川口有美子(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「難病患者は生きるのに忙しい」 日本のALS患者と家族のために戦っている、尊敬する友人、川口有美子さんの著作です。 ALSの日本語の医学名は、筋萎縮性側索硬化症。全身の筋肉が衰えて、最後には呼吸停止にいたる難病中の難病です。病…

『定年からの旅行術』加藤仁(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「老いた人の旅は、過ぎゆく時間を抱きしめながら」 先日、会社の仕事で「名古屋モーターショー」に行ってきました。車中泊仕様にカスタマイズした車両を2台展示。1日中、車両の横に立ってお客さんの様子をみていますと、小さなお子さ…

『転身力』小川仁志(海竜社)

→紀伊國屋書店で購入 「山口県に面白い哲学者がいる!」 それまでの生き方から、がらりと変身した人に興味があります。 「人生でひとつだけのことに専心して、そのことによって生活ができ、家庭を養うことができる。それが幸福である」 その価値観が日本の高…

『twitter社会論』津田大介(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「twitterのつぶやきで世界は変わる」 twitterにはまるとは思っていなかった。僕がtwitterのアカウントを取得ししたのは1年以上前。アメリカで流行しているというネット情報を知ったときだった。日本人のユーザーが少ないということも…

『論語』孔子著 金谷治 訳注(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「孔子もつぶやいていた。」 twitterが流行しています。このミニブログのシステムは、気軽にできるブログのようなもの、と思っていたのですが、実際に使ってみると、ブログとはまったくの別物。mixiよりも適度な距離感があって、ストレ…

『私小説のすすめ』小谷野敦(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「私小説を断固として擁護する、小谷野節が炸裂!」 先日、はじめて浜松文芸館に行ってきた。浜松市の文芸活動を紹介する公的な施設である。とくに、浜松に約半世紀住んで、眼科医を営みながら作家活動をした藤枝静男の存在をアピールし…

『「坂の上の雲」と日本人』関川夏央(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「司馬を読まずして司馬がわかる、日本がわかる」 司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んだことがありません。ですが、一読して、これは出色の本であると感じたのは、書き手が関川夏央さんだから。私にとっての関川といえば、『戦中派天才老…

『ほっとけよ。』田原牧(ユビキタスタジオ)

→紀伊國屋書店で購入 「異形である生を引き受けるということ。」 顔面の手術を受けることにした。30代から、右顔面にある血管腫が、年を経ることに膨張していた。44歳になった今は、右頬骨の上に小さなイボに成長している。このイボは血管の塊。傷をつけると…

『新世紀メディア論』小林弘人(バジリコ)

→紀伊國屋書店で購入 「あがく者のためのメディア・スピリッツ・ブック」 未来の菊池寛(文藝春秋の創業者)、野間清治(講談社の創業者)、村山龍平(朝日新聞の創業者)に向けて書いた「新しいメディア人よ、出よ!」。 著者の小林弘人(インフォバーン代…

『瀕死の双六問屋』忌野清志郎(小学館文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「あの人の鼻歌が聞こえる、ほろりと泣ける名著」 忌野清志郎 ちょっとめげていた。理由はいろいろある。ここに書くような価値のあることではない。些細なことでめげていた感じだ。はっきりした理由はない。 昨夜、帰宅すると、妻が夕食…

「くちぶえサンドイッチ」松浦弥太郎(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「ポケットにはいる掌編エッセイの傑作」 高遠ブックフェスティバルから浜松市に帰ってきて、無性に本が読みたくなりました。移動する書斎というコンセプトでつくりこんだワンボックスカー(ハイエース)を若いイケメン社員に運転しても…

『21世紀の国富論』原丈人(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「不況で先が見えない今こそ読むべき、未来創造のための書」 もうすぐ衆議院選挙。自民党が敗北し、民主党政権になることは確実とみられています。この激変のきっかけをつくったのは、昨年秋に始まったリーマンブラザーズ破綻から始まっ…

『新世紀書店』北尾トロ・高野麻結子(ポット出版)

→紀伊國屋書店で購入 「田舎に本の町を作るという夢が実現する!」 今週末、8月29日、30日の両日、長野県伊那市高遠町で「高遠ブックフェスティバル」という日本初のイベントが開催されます。 私はこのイベントに、「移動する書斎・書店」というコンセプトの…

『顔にあざのある女性たち』西倉実季(生活書院)

→紀伊國屋書店で購入 「ユニークフェイス研究に光を当てた労作」 本書は、日本というユニークフェイス研究不毛の地に、はじめて登場した日本人研究者による学術書です。 私が1999年からユニークフェイス問題を公に語り初めて10年。ようやく日本の現状…

『2011年 新聞・テレビ消滅』佐々木俊尚(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」 日本のテレビ、新聞などのマスメディアのビジネスモデルがまもなく崩壊する、ということを事実を元に提示したノンフィクション。著者は、IT分野を専門に、ネットとリ…

『旅の夢かなえます』三日月ゆり子(読書工房)

→紀伊國屋書店で購入 「旅は異文化コミュニケーションであり、そして人生そのもの。」 日本は諸外国と比較すれば、高速道路、鉄道、バスなどの交通インフラが縦横に張り巡らされた便利な国だと言えるでしょう。 しかし、日本はどんな人でも自由に移動ができ…

『奇想ヤフオク学』橋本憲範(平安工房)

→紀伊國屋書店で購入 「古本を3億円売って世界一周!」 6年間で3億円の古書を売り切った、伝説の古書店エーブックスの店主が書いた、ヤフオクビジネスのすべて。この本の存在をまったく知らなかった。 まずはこの書籍にたどり着くまでのことを書きます。 …

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』山本繁(メディアファクトリー)

→紀伊國屋書店で購入 「社会変革は最高のエンターテインメント事業である」 社会起業家とは、社会問題を事業によって解決する事業家のことだ。 著者の山本繁は、NPOコトバノアトリエの代表。いま、もっとも注目されている社会起業家のひとりといっていいだろ…

『ゆびさきの宇宙』生井久美子(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「福島智という、盲ろう者の奇跡を描いたノンフィクション」 目が見えない。耳が聞こえない。「盲ろう」の当事者、福島智の評伝ノンフィクション。福島はバリアフリーについて研究をする東京大学の教授です。 「もうろう」とキーボード…

『ミレニアム 1  ドラゴン・タトゥーの女  上』スティーグ・ラーソン (著), ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利 (訳) (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「名誉毀損で敗訴したジャーナリストと、ドラゴン刺青の女が共闘する北欧発のハードボイルド」 スウェーデン発のハードボイルド小説である。ハードボイルド小説といえば英国かアメリカが元祖。めったなことでは英語以外の言語の海外ハー…

『ファンドレイジングが社会を変える』鵜尾雅隆(三一書房)

→紀伊國屋書店で購入 「日本に寄付10兆円市場を2020年までに実現させる!」 ビジネスの手法で社会問題を解決する社会起業というワークスタイルが注目されています。社会起業といっても、その主体は、株式会社からNPO法人(特定非営利活動法人)、法人格を…